出雲の山々 | 神名火山の会

出雲の山々

本を片手に山に登ってみませんか

―再版『出雲の山々』―

島根県の山岳連盟が出版している『出雲の山々』という本がある。この本の中には、島根県の名だたる登山家によって、島根県の山々と県境にまたがる山々が、百余り紹介されている。この本を手にして山に登る人を読者に想定して、山の標高と登頂の難易度、山の位置や地形とその周辺地図、登攀ルート・ルートのコースタイム、山小屋の有無とその場所、山の特徴と見どころ、危険な箇所や注意点等が、写真とともに紹介されている。

この度、この『出雲の山々』が再版されることになり、内容の全面的な改訂とともに、登山道などが整備され開拓された9つの山が、新たに追加されて紹介されることとなった。

新たに紹介されることとなった登山コースの一つが、飯南町の森林セラピー『森の巣』を中心にして裾野を広げて聳え立つ「指谷山」「指谷奥」「草の城山」と、そこを基点とした縦走コースであるが、その執筆を私が担当することになった。

昨年の春、県下の有数の山岳クラブの代表者が集まって編集構想が練られた。そして、そこで企画された編集計画に基づいて、山の調査と執筆が始まり、現在、編集のまとめの段階に入っている。

私も、担当の「指谷山」周辺の縦走コースを、昨年の秋から今年の秋にかけて、調査のために数回に渉って踏破した。全長約12キロメートル以上に及び、コースタイムも全行程を歩くと7時間はかかる。このコースは、幾つかの急激なアップダウンもあるが、縦走路の一部が島根インターハイの山岳競技のコースにもなったこともあり、よく整備されていて歩きやすい。また、四季折々の自然にも恵まれ、標高約千メートルの稜線に沿って、両側に聳える山々の絶景を楽しみながら歩くことのできる快適なトレッキングコースである。周囲の自然の様子を観察したり、写真を撮ったり、コースタイムを計測したりしながら、私自身の山歩きの趣味を兼ねながら楽しく歩いた。

さて、現地踏査によって収集した資料を目の前にして執筆する段になると、この原稿を手がかりに実際に山に登る読者のことを考えて、かなり難儀した。が、次のような文章とともに書き出した。

「このコースの魅力は、能力・コンディション・好みなどに応じて、様々な登山コースを選ぶことができることと、標高が高く見晴らしの良い稜線に沿って歩くことのできる、天空の長い縦走路にあるだろう・・・」

現在、編集委員が原稿を持ち寄って検討を重ねている。これまで掲載されていた原稿も、もう1度全部、県内の登山家によって現地を再調査され、新しい地図・写真に差し替えられ、更正が重ねられている。今後、何回かの編集会義を経て、来年早々には刊行される予定である。一つ一つの山が、山の愛好家によって実際に登って調査されて執筆された、実践に役立つ、手作りのひじょうにていねいな仕上がりの本になることは間違いないだろう。

この本には、山登りの初心者への一般的な手ほどき、標準的な装備、県内の主な山岳クラブの紹介等も巻末に掲載されている。島根県の山を紹介した書籍は他にも、2,3冊発行されているが、この『出雲の山々』は、島根県、県境付近の主だった山がほぼ網羅されており、新しく開拓された登山ルート、危険で歩けなくなったコースや整備された山小屋等、山の最新情報が掲載されていて秀逸である。最新版は来年に刊行の予定であるが、現在の版も、残部があれば今井書店等の大型店で購入可能である。

校歌に歌われている朝日山も、次のような文章で紹介されている。

「松江北山と出雲北山との間の本宮山塊と呼ばれる丘陵状の低い山並みの東端に位置し、湖北平野の奥に優しい姿を横たえている山である・・・眼下に宍道湖、その背後に遠く県境の山々まで連なる山々、振り返れば果てしない日本海の広がり。晩秋の冷えた朝には松江市街も湖もすっかり霧の下に隠れる風景も見られる・・・」

ぜひ、一度手にとって、関心を持たれた山に、この本を片手に登ってみられることをお薦めします。自然の山々は懐深く、時々刻々姿を変貌させながら、私たちを温かく包み込んでくれます。山の草花が、樹木が、自然界の動物たちが、私たちとの出会いを待っていてくれています。親子で、家族で、仲間で、あるいは一人で登っていくと、自らの内に新しい生命の息吹が蘇っていくことでしょう。

指谷山山頂

さて、私の『指谷山』の原稿は、次の言葉で結んだ。

「このコースは、よく整備された登山道で安全なコースであり、四季折々の自然を満喫しながら気持ち良く歩いていくことができるが、ツキノワグマの生息地でもあるし、また、指谷山の縦走路はマムシが非常に多く、日によっては何回も出会うので、注意が必要だ。」